インタビュー 邁進するHPのデータセンター戦略

石積尚幸氏

石積尚幸氏
日本ヒューレット・パッカード株式会社
取締役 副社長執行役員
サービスビジネス担当

2005年以来、データセンターの統合、相次ぐ企業買収、「アダプティブ・インフラストラクチャ*1」(ITのビジネスへの最適化)の発表、そして2008年6月「HP DCT(Data Center Transformation)ポートフォリオ」の発表が行われた。ハードウェアやソリューションで、昨今めまぐるしいまでの動きを見せるHP。こうした動きの背景にはどのような戦略があるのか? また、こうした動きは国内のデータセンターにどのような影響を与えるのか? HPのデータセンター戦略について、日本ヒューレット・パッカードの副社長、石積尚幸氏に話を伺った。
聞き手 本誌編集長 土屋信明

*1 アダプティブ・インフラストラクチャ
HPが推進する次世代ITインフラのコンセプト。仮想化や運用の自動化を利用した24時間365日の無人稼動を行うことで運用コストや経営リスクを低減しながら、ビジネスニーズに応じて自在に変更・拡張可能なITリソースの提供を実現する。

エンタープライズITが抱えるジレンマ

石積尚幸氏

——先日、国内での展開を開始された「HP DCTポートフォリオ」は、「企業のデータセンターの変革」をテーマとして掲げられています。現在、エンタープライズITにはどのような課題があるとお考えですか?

石積 さまざまな課題がありますが、まずコスト削減のプレッシャーが挙げられます。経営層からはコスト削減が求められる一方で、変化に俊敏に対応できる環境、24時間365日止まらないサービス提供、コンプライアンス遵守など、ITに対する要求は以前にも増して厳しくなってきています。こうした大きなジレンマを抱えているのが、エンタープライズITの現状です。そして、それは弊社が抱える問題でもありました。

——御社自身も、コストプレッシャーと厳しい要求の中で同様のジレンマを抱えておられたと?

石積 はい、そのとおりです。2005年頃の弊社は、ワールドワイドに展開する大きな製造業のメーカーとして、まさにそうした問題に直面しており、改革の必要性に迫られていました。

——具体的にはどのようなことでしょうか?

石積 弊社は、総売上の4%をIT予算に割り当てており、一般的な企業よりも多くITに投資しています。それにもかかわらず、そのうちの70%が運用・保守に費やされており、開発には30%程度しか利用できていませんでした。先ほど述べたようなジレンマに、弊社自身も陥っていたわけです。こうした状況を改善していくためには、運用にかかるコストを下げて、新規開発に予算を回せるようにする必要がありました。

図1
図1 HP DCTポートフォリオ(データセンター・トランスフォーメーション・ポートフォリオ)の主要なソリューション 企業のデータセンターの変革を支援する製品・サービス群。データセンターの最適なコンソリデーションを支援する「HP データセンター・コンソリデーション・サービス」、ITインフラの仮想化を支援する「HP データセンター・バーチャライゼーション・サービス」、データセンターの企画・設計・運用のコンサルティングを行う「HP クリティカル・ファシリティ・サービス」という3つのサービスからなる。2008年6月より、国内におけるサービス提供を開始。

自ら取り組んだデータセンター改革

——そこで、御社自身が自社のIT環境の変革に取り組まれたわけですね。具体的にはどのような方法で運用コストの削減に取り組まれたのでしょうか?

石積 最初に着目したのは、アプリケーション統合です。とにかく、それまではモノを持ちすぎていた(笑)。これらを必要最小限のところまで統合しようとしました。しかし、弊社のようにワールドワイドに展開している企業の場合、販売管理システムは国ごとに事情が違うので共通化は難しいのですが、人事システムなら90%程度は共通化できます。こうしたアプリケーションポートフォリオやプロジェクトの分析を通して、アプリケーション統合を行いました。現在、弊社の人事システムは統合され、ワールドワイドの全社員を1つの人事システムで管理しています。

——まず内部的な部分の改善から始めたわけですね。

石積 さらに、そうした内部的な部分の改善と並行する形で、最新のテクノロジーやツールを利用して外部的な部分の統合を行いました。具体的には、仮想化技術を用いながら、できるだけシステムの自動運用を行える環境を構築するというものです。最終的には、ある単位のコンピュータリソース群を用意しておき、プロジェクトからのリクエストに対して、必要なリソースが自動的にディスパッチされるというのが、あるべき姿だろうと思っています。

——仮想化や運用自動化をするとなると、ツールを利用した管理が不可欠になると思うのですが、こうしたツール類は自社で開発されたのでしょうか?

石積 必要なツールは、これまで買収してきた企業の資産を組み合わせることで対応できましたので、最初から作ったものはありません。近年に行った買収の成果がうまく出せたと思っています*2。ほかにも、データセンターのコストの多くを占めている電源や冷却の最適化にも取り組みました。

*2 企業買収
現在の「HP Software」と呼ばれる新生ソフトウェアを生み出すため、マーキュリー社、SPI Dynamics社、Opsware社など第一線のソフトウェア企業16社以上の買収を進め、HP OpenViewの機能を進化させてきた。

——最終的にはコスト削減の効果はどれくらいあったのでしょうか?

石積 最終的には、それまで85以上あった社内のデータセンターを3年間で3ゾーンの計6データセンターに集約しました(HPのデータセンターは、現在米国のオースチン、アトランタ、ヒューストンの3拠点に2か所ずつに集約されている)。データセンターの数を減らしたことで、サーバーやストレージ、さらにその上で動いていたアプリケーションのライセンス料、運用のための人件費などを減らすことができましたので、約1,000億円のコスト削減が実現できました。

自社での経験を顧客に提案

——そうした自社での経験が、「HP DCTポートフォリオ」に活かされているということでしょうか?

石積 そうです。社内での経験を「HP DCTポートフォリオ」に活かしながら、最終的には弊社のお客様にもその経験を提供していきたいと思っています。インフラをサービスとしても展開していきますので、弊社ではこれをSaaS(Software as a Service)をもじって、「Adaptive Infra­st­ructure as a Service」と呼んでいます。また、社内にこれまで700近くあったデータウェアハウスやデータマートを1つのデータウェアハウスに統合するプロジェクトも進めており、ここで得られたノウハウも「HP Neoview Platform」という製品として提供しています。

——自社内での経験を、顧客にも提案していくという方法論なのですね。

石積 最も進んだITを自社で使うとともに、お客様にとって一番の事例になるというのも、今回の統合の目的のひとつです。弊社が目指すITインフラストラクチャとデータセンターの変革の意味するところは、これまでバラバラに増え続けていた企業のIT資産を、プール化されたリソースとして、必要に応じて動的に分配する全体最適化された状態、つまり「Next Generation Data Center」へ移行することです。

——そのようなデータセンターの環境は理想的だとは思いますが、一般の企業がそこまで到達するにはまだまだギャップがあるのではないでしょうか?

石積 DCTに関していろいろなソリューションを発表させていただきました。いろいろなレイヤーがありますから、一番上位の管理と運用のレイヤーでのアセスメントから、データセンターのクーリング、サーマルテクノロジーのアセスメントなどハードウェアに近いものまで、いろいろなレイヤーのコンサルティングや方法論をご提供します。お客様に対して最初にアセスメントサービスを実施させていただきますので、いきなり理想を目指すのではなく、現時点での到達点をアセスメントしたあとに、「HPが提供するサービスを組み合わせれば、こういう形でここに到達できます」というロードマップをご提示して、お客様とともにチャレンジさせていただくようなメニューをご提示しています。

図2
画面1  HP Insight Dynamics-VSE インタビュー直後に発表された、サーバーストレージと仮想環境を統合管理するソフトウェア製品。HPのすべてのサーバーストレージであるHP Integrity、HP ProLiant、HP BladeSystem、HP StorageWorksに加え、VMwareやHP VSEといった仮想サーバーの統合管理が単一の画面から行える。また、仮想化環境を前提とした柔軟なシステム配備やシステムを横断したキャパシティプランニングの支援機能なども備える。

日本のデータセンター事業者の独自性

石積尚幸氏

——日本でのDCTの発表時に、EYP MCF*3の件もアナウンスされていましたが。EYPは日本ではどのような役割を果たすのでしょう?

*3 EYP Mission Critical Facilities
大規模なデータセンター(2000m²以上)の企画・設計と運用計画に特化したコンサルティングサービスを行っている。HPは2007年11月に買収を発表し、2008年2月に合併を完了している。

石積 EYP自身は、お客さまのビジネスニーズを踏まえて、お客さまに対するコンサルティングを提供します。弊社ではEYP社のサービスとこれまでの弊社のサービスを組み合わせ、「チップからビルディングまで」のフルサービスを提供します。すでに日本にもEYPのお客様がいらっしゃいますので、日本のエンジニアと協力してサービスを提供していきます。

——御社自らがデータセンターを構築して、顧客に提供するということもありえますか?

石積 現時点では考えていません。ただし、ハウジングしたいという要望をお持ちのお客様には、国内のデータセンター事業者の方々と協力して提供していきたいと思っています。その際、弊社が考える基準を満たしていただいたデータセンター事業者の方々に対しては、弊社が保証するという形でお客様に提供することになると思います。

——その基準には、具体的にはどのようなことが盛り込まれているのでしょうか?

石積 社内システムでサービスレベルが一番高いものは四重化、五重化して何があっても止まらないようにしておくというものから、サービスレベルが一番低いものはいったん止まったら復旧するまでそのまま止めておくというものまで、サービスレベルによっていろいろな対応ができるような考え方に基づいて作っています。

——日本の企業内ITの状況ついては、どのように捉えられていますか?

石積 日本のデータセンターをひとくくりにしてとらえるつもりはありませんが、日本のお客様は効率化やコスト削減を重視される傾向が強く、IT部門は、どうやってテクノロジーがビジネスの成長をもららすか、というところまで到達していないように思います。また、ビジネス事業部の方は、ITを効率化の手段としか考えていないのではないでしょうか。欧米はビジネスを伸ばす武器として、テクノロジーを活用しようとする意識が高いように思います。CIOと呼ばれている人は「今後の戦略をこちらに持っていくには、こういう技術があるから、こういう分野でもっとビジネスが伸ばせる」ということを、CEOと体を張って議論します。そこが違うところですかね。

——ファシリティ面でも違いは少なくないのでは?

石積 典型的だと感じるのが、消火設備の違いですね。欧米のデータセンターでは、消火設備としてスプリンクラーを利用するところが珍しくありません。欧米では、一番守らなければならないものはデータと考えていて、二重化などでデータの安全さえ確保されているなら、火が出たらコンピュータに水をかけて消せばいいという発想です。定かではありませんが、日本では水を使うのは法律で禁止されているためにガスが主流と聞いたことがあります。ほかにも、都心の近いところにデータセンターが集中していることや、電源、冷却、床荷重などファシリティ面でも違うところは少なくないですね。

——日本では統合化したい、仮想化も使いたいというニーズがあったとしても、ファシリティの環境がまだ許さないというiDC事業者がまだ多くあると思うのですが。

石積 古い設備のデータセンターでは現状のままでは対応できないこと、また、首都圏におけるiDCが不足しているという状況で、多くのiDC事業者の方々が積極的に次世代のデータセンターの構築に取り組んでおられます。今後、仮想化や自動化が進み、ブレードサーバーが中心になっていきますので、当然空調や省電力まで考えざるを得ません。運用管理に関しても、弊社がどういうことを標準化しようとしているかをiDC事業者の方々と共有させていただいています。新たに作るからには、次世代の仮想化や自動化に対応した、弊社が考えるネクストジェネレーションデータセンター(NGDC)をいっしょに展開しようと言っていただいているデータセンター事業者さんもおられます。

——品質に対する意識の違いなどもあるのではないでしょうか?

石積 それも感じますね。日本のお客様の要求は他国に比べると高いものが求められるのですが、そこを乗り越えることで弊社の技術レベルの向上にもつながると思っています。

——そうした国や地域ごとの事情の違いに合わせて、方法論を変更されることはあるのでしょうか。

石積 いいえ、方法論は1つだけです。実際のやり方は違ってくるとは思いますが、ベースになる方法論は同じです。

これからのロードマップ

——まだ「HP DCTポートフォリオ」を発表されたばかりですが、これからのロードマップはどのようになっていますか。

石積 具体的には、まだ何も考えていません。データセンター統合によって、弊社でも一時的にサービスレベルが下がったケースもありましたが、新しいインフラができ、削減したコストを開発に回していけるようになったことで、これからどんなことが起きるのかを見ているところです。仮想化、自動化されたインフラの上に、SOAベースのシステムを構築することで、新しいサービスへの要求にも迅速かつ柔軟に対応できるようになります。そこでどんな変化が起こるのかを楽しみにしています。

——どうもありがとうございました。

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