カゴヤ・ジャパン けいはんなラボ

本格稼働する省エネデータセンター

カゴヤ・ジャパンは、企業名から伺えるとおりもともとの創業事業は茶摘かごを扱う小売商店だったという異色の事業者だ。特に屋号もなく、顧客から「かごやさん」と呼ばれていたのが現在の社名になっている。インターネットサービスの開始当初は、iDCのユーザーという立場で事業を行っていたが、既設のデータセンターを使う立場では不自由が多いという判断から、自社専用のiDCを建設し、運用を行っている。実績値としてPUE 1.5を実現しており、高効率を誇るiDCだ。

文:渡邉利和、写真:ナイスマックス

カゴヤ・ジャパンのiDCの概要

カゴヤ・ジャパンは、京都の南部に位置する関西文化学術研究都市に自社iDCを建設運用している。2009年8月には「電源空調設備の増強、セキュリティ設備の強化、および増床によるハウジングのスペース拡張を実施」しており、サーバールームの延べ床面積で約400m²、ラック本数は約250本という規模になっている。同社ではこのiDCは「比較的小規模」だと認識しており、省電力化/高効率化を図るには不利な要素があるという。規模が大きいほどスケールメリットが得やすいが、小規模ではサーバールーム以外のオフィスや付帯設備などで使用する電力消費の比率が相対的に上昇してしまい、PUE値を悪化させる要因となってしまうからだ。そんな条件下で実運用環境における実績値としてPUE 1.5を達成していることから、運用ノウハウや省エネルギー化の手法には相当に高度なものがあると思われる。

カゴヤ・ジャパンのiDCの特徴は、実はファシリティそのものよりも設計コンセプトにある。同社では、iDCを建築物ではなく「PCの筐体と同様の存在」と位置付ける。もちろん、現実世界では建築物そのものであり、建築基準法などの規制が適用される部分に関して省略があるわけではないが、内部に収容されるプロセッサやメモリ、ストレージの本来の能力を発揮させ、メンテナンスが容易であることを重視して設計してあるということだ。

建物全体がRC免震構造でできており、サーバールームはもちろん電源や空調など、運用継続に必要なすべての設備が地震から保護されるように配慮されている。電源供給に関しては、現時点での標準的な設定はラック当たり4kVAで、平均的な使用電流用は30A程度になっているそうだが、必要があればラック当たり8kVAまでの増設が可能とされている。ちなみに、実際に8kVAを供給しても冷却能力などに問題が生じないことをブレードサーバーを実際にラックに詰め込んで80Aの電流を流してみることで実地に確認しているそうだ。

高効率化の手法

カゴヤ・ジャパンのiDCでは、2008年12月~2009年5月の電力消費量の実測値を元に算出したPUEが1.5になったことを公表している(図1)。現時点でも、日本国内のデータセンターではギリギリPUE 2を切る辺りが主流であることを考えればなかなか優秀な値である。この実績を踏まえて同社では、今後さらにPUE 1.3を目標に効率改善の努力を継続していくとしている。では、PUE 1.5を実現したのはどのような手法によるのかを見ていこう。

年間月別PUE及び関連数値
図1 年間月別PUE及び関連数値(積算電力量)統計グラフ(出典:カゴヤ・ジャパン)

実のところ、同社で採用されている高効率化の手法では、最先端のハイテクノロジーというものは特になく、データセンターの効率化という文脈では普通に言及される技術ばかりだ。ただし、効率化の技術は単に導入しさえすれば効果が現れるというほど単純な話ではなく、現場の状況に合わせた調整や運用管理体制がモノをいうということを考え合わせれば、カゴヤ・ジャパンがどこに注力しているのかが分かってくる。

同社が効率化のための中核的な手法として導入しているのが、サーバールーム内での冷気と暖気の分離の徹底である。サーバールーム内でラックの前面(吸気側)同士、背面(排気側)同士がそれぞれ向かい合うようにラックを配列し、冷気が供給されるコールドアイルと、IT機器の排気が集まるホットアイルとを区別して両者が混合しないようにすることで冷却の無駄を省く、という手法は現在では特に目新しいものではなくなっている。しかしながら、遮風板などを設置して気流の閉じ込めを行う際に、「コールドアイルを閉じ込めるのとホットアイルを閉じ込めるのとではどちらが効果的なのか?」という疑問を感じないだろうか。両者をそれぞれ閉じ込める、という手法も考えられないわけではないが、それではコストが掛かりすぎるという問題が生じるので、通常はコールドアイルかホットアイルか、どちらかに閉じ込め策を施すことになる。カゴヤ・ジャパンのiDCでは、サーバールーム内にコールドアイルを閉じ込めた個所とホットアイルを閉じ込めた個所の両方を作り、その効果を実際に測定してみたのだという。この、実際にやって測定してみる、というアプローチがカゴヤ・ジャパンの高効率化手法の根幹をなす発想だろう。

同社のデータセンターのサーバーフロアは、おおむねハウジング向けのスペースが2割ほどで、8割がレンタルサーバー向けのスペースに割り当てられているという。そして、レンタルサーバーの主力となっているのが、NEC Express5800シリーズの電力効率に優れたハーフラックサイズのIAサーバーだ(写真1)。このサーバーは、奥行きが一般的なラックの半分以下となっており、ラックの両面から1段に2台マウントできる(図2)。こうすると、ラックの中央に煙突状にホットアイルが構成され、ラックの外側は両面共にコールドアイルとなる。通常は閉じ込めのために遮風板などの設備を新たに追加するところだが、このハーフラックサーバーを詰め込んだラックに関しては、何もしなくてもラックの内部にホットアイルが閉じ込められた状態になる(図3)。この状態で、ラック天面から暖気が漏れ出さないようにしてやれば、ホットアイルの閉じ込めができる(写真2)。設備投資をいたずらに増加させることなく、効果的に気流の分離を実現できるわけだ。

写真1 ハーフサーバーを収納したラック 写真1 ハーフサーバーを収納したラック
1ラックに前後マウントされたハーフサーバーがフルに収納されている。レンタルサーバー用のサーバー群。
写真2 ラック上部の遮蔽 写真2 ラック上部の遮蔽
ラック中央部を上昇する暖気をラックの上部で囲い込み、直接天井のプレナムに送り込むことで、暖気が漏れ出すのを防ぐ。
図2 NEC Express5800ハーフサーバーのマウント
図2 NEC Express5800ハーフサーバーのマウント
ハーフサーバでは35.5cmという奥行きで、省スペース筐体&前面保守を実現したことで、ラックの前後からの搭載が可能となり、ラック当たりで従来サーバに比べ、2倍の高密度実装を実現した。(出典:NEC)
図2 NEC Express5800ハーフサーバーのマウント
図3 ラック内の暖気の流れ
サーバー前面から冷気を吸気し、ラック内中央がホットアイルとなり、上昇気流によって天井吸い込み口へ排気される。

同社での実測結果では、冷気と暖気の分離を行った場合、吸気側の気温が3.6℃低下したという。つまり、空調機の温度設定を分離前に比べて3℃高くしても、実際にIT機器に吸入される冷気温度はまったく同一になるということだ。空調機の設定温度を上げれば、空調機の消費電力量を直接的に削減できるため、高効率化につながる。気流分離の成果として、実施以前との比較でサーバー1台当たりの電力料金が3割程度減らせたという実績も上がったそうで、単に理論上の効率向上ではなく、具体的に数値で比較可能な成果を上げている点が重要だ。

また、見過ごされがちだが、ラック周囲の隙間を確実にふさぐことで気流分離を徹底する努力も行われている。たとえば、ラックの底面部分だ。フリーアクセスフロアの床下から電源やネットワークのケーブルをラックに引き込むため、ラックの真下の床は完全に開放されていることが多いのだが、そうするとこの開口部が通気口となって冷気と暖気の混合が起こってしまう。カゴヤ・ジャパンでは、ラックの床下に関しても、ケーブルを通すための穴を開けたパネルを用意して目張りしてしまい、気流の往来をほぼ遮断するという取り組みを始めている(写真3)。これも、大規模な投資を要するような話ではなく、どちらかといえば現場の創意工夫に属する話だが、こうした細かな努力が積み上がって効率化が実現されるわけだ。

写真3 ラック内部のケーブル引き出し口
写真3 ラック内部のケーブル引き出し口
ケーブルの本数が少ないところは、冷気が漏れないように、アクリルの板で塞いでいる。

きめ細かな運用監視

カゴヤ・ジャパンの取り組みでは、最新の高価なソリューションを一気に導入して資本の力で問題をねじ伏せる、という手法はとらず、細かな工夫の積み重ねでコストをかけずに実効を得る、というアプローチが徹底している。運用監視についても、全ラックの吸気側/排気側それぞれに温度計を設置して温度監視を行っているが、実際の温度計測はオペレータがサーバールームを巡回して目視で記録を取っているという(写真4)。ソリューションとしては、各温度センサの出力を自動的に収集するテレメーターリングシステムなどがすでに商品化されているし、このシステムの出力と連動して空調機の運転制御を行う自動システムも存在しているわけだが、現時点では決して安価な投資とはいえない。一方で、オペレータがサーバールームを巡回するのは、現実的な必要があってのことだ。たとえば、サーバーが異音を発生していたりするのは故障の前兆だと理解できる。通常とは異なる音が出ているというのは、たとえば冷却ファンやHDDなどの回転部分のベアリングの偏摩耗が原因となっていたりすることが多い。サーバーの遠隔監視を支援するシステムはさまざま存在するが、マイクを使って異音の発生を検出するようなシステムは存在しないだろう。もちろん、そうした前兆をいち早く把握するまでもなく、実際に障害が発生しても問題を生じないようにあらかじめ備えたうえで故障発生を迅速にレポートする自動監視システムを使って運用する、というのが通常の発想ではあるが、こまめにオペレータがチェックすれば故障が発生する前に対処することも可能になるし、全体の信頼性の向上にもつながるだろう。高価な自動監視システムを導入するのと、オペレータが巡回監視をするのとではどちらが低コストなのかというのは難しい判断だが、単に温度監視のためだけに巡回するのではなく、サーバーの総合的な状態把握やセキュリティ維持のためなど、さまざまなメリットが複合的に得られることを考えれば、カゴヤ・ジャパンの手法は十分合理的だといえるだろう。もちろん、こうした手法が成り立つのはカゴヤ・ジャパンのデータセンターが相対的には小規模なサイズだからという面はあるだろうが、ファシリティの現状に即した最適な手法をとるという点では、まさに王道でありおおいに参考になる部分だ。

写真4 監視用温度計
写真4 監視用温度計
ラック単位で、吸気側と排気側の温度を測定している。

カゴヤ・ジャパンでは、オペレータの巡回によって得られた温度分布の情報を踏まえて、空調機の出力をこまめに調整することで無駄な冷やしすぎを抑制している。細かな調整も手作り感覚溢れるもので、たとえばサーバールームのコールドアイルの床に開口した冷気吹き出し口をパネルで塞いだり開けたりして冷気の吹き出し量を調整している(写真5)。

写真5 穴あきパネルの吹き出し口
写真5 穴あきパネルの吹き出し口
冷気吹き出し口の一部を塞いで、反対側のパネルに送風が送られるようにする。

データセンターでも、ホスティングを主体に事業を展開している場合には、顧客企業がラックをどのように使うかがまちまちであることから、効率を追求することは簡単ではない。たとえば、機器の設置や管理の際に邪魔になるという理由で、ラックの空きスペースを素通しにしていることは珍しくないが、気流分離を徹底することで効率を改善する視点からは、ラックの空きスペースがコールドアイルとホットアイルを直結する通気口になってしまうのは論外だ。とはいえ、ラックを借りたユーザー企業に「ブランクパネルを設置して完全に塞いでくれ」と要請できるとは限らない。カゴヤ・ジャパンのデータセンターの場合、大半がレンタルサーバー用のスペースとなっていることも効率改善に有利に作用していることは間違いないだろう。気流分離などを徹底することは、運用管理上の不便につながる可能性があるわけだが、自社で運用管理をまかなうレンタルサーバーであれば、顧客には一切の不便を与えることなく効率改善策を徹底できる。さらに、その効率改善策をコストをかけずに実施すれば、最終的にはレンタル料金を抑制することで、ユーザーメリットにつなげることも可能になるわけだ。

カゴヤ・ジャパンでは、コストパフォーマンス重視の姿勢が徹底しており、無駄な電力消費を徹底的に抑制するのと同時に、無駄な設備投資も回避している。一般的に取り沙汰される「エコ」の手法として太陽光発電などがあるが、これに対しては「サーバーラック1本分の電力供給を行うために必要なパネル面積は300坪ほどになると試算され、到底コストに見合わない」という。また、建物全体に散水することで気化熱で建物を冷却するという手法に関しても、「サーバールームに水漏れが起こるようでは困るが、漏水対策を徹底するために要するコストとメリットが引き合うのか」といった具合で、単に対外的なアピールのための省エネ対策には飛びつかず、実効性があって経済的にメリットが得られる手段を厳選するという姿勢だ。とはいえ、今後さらに効率化を進めていくうえでは、サーバールームでの気流分離をさらに徹底していくことに加えて、空調室外機に噴霧して冷却を助ける手法の導入は検討中だという。

結局のところ、データセンターにおける電力効率の改善は、製造業における品質向上と同様で、現場の地道な努力の積み重ねによって始めて実現できるものだといえるだろう。製造工場で製品の不良率を低減させるために現場でのQC活動が成果を上げる一方、最新鋭の製造機械を単に買ってくるだけで成果が上がったりはしないのと同じように、データセンターで自動化システムや最新のソーラーパネルを単に購入するだけでは成果には直結しないことは明らかだろう。こうしたシステムを導入した場合でも、現場でその能力をフルに引き出すための運用管理体制を磨き上げていくことが不可欠となる。逆に、そうした現場の力が高いデータセンターであれば、最新のソリューションを導入した場合により大きな効果をそこから引き出すことができるはずだ。環境対応やグリーン化といった取り組みを一過性のブームで終わらせないためにも、現実的な地道な努力を長期的に継続していく体制を作ることが重要だろう。

※「高効率化の手法は、株式会社NTTファシリティーズのアイルキャッピング技術を用いたものです。」

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