アジア進出を図る、IIJ GIOクラウドサービス

丸山孝一氏

インターネットイニシアティブ
執行役員国際事業推進室長
丸山孝一氏

インターネットイニシアティブ(以下IIJ)はいま、コロケーションなどのデータセンター事業やSIといったこれまでの事業に加え、クラウド事業へと事業ドメインを拡大している。この動きは国内のみならず、海外においても同様に展開されている。2013年1月21日には、中国でのクラウド事業展開を開始するとの発表があった。その背景や海外へ進出しようとする企業にとってのメリット、今後の方針などについて、IIJ執行役員国際事業推進室長の丸山孝一氏に伺った。
聞き手 本誌編集長 土屋信明  文 柏木恵子  写真 津島隆雄

グローバル化する企業への支援

——1月に中国への進出を発表されましたが、その背景を教えてください。

丸山●IIJの海外事業としてはもともとアジアのバックボーンを運営する子会社としてAIH(アジア・インターネット・ホールディング)がありましたが、2005年にIIJに吸収合併した後は国内のお客様向けに特化してきました。国際的なサービスを提供してほしいというお話は、たとえば国際WANや海外のコロケーションなど、いくつかいただいていたのですが、そういう部分は先行されている会社が得意な分野ですので、これまでは、我々が大きな競争力を持って入っていける分野ではなかったのです。

そうした状況が変わった要因はいくつかあります。まず、AT&Tジャパンの国内事業を3年前に買収し、社名もIIJグローバルソリューションズとしました。旧AT&Tのビジネスを支えていたメンバーですから、海外のビジネスの勘がありますし、英語でビジネスをやることに問題がありません。顧客層としても、海外でのサービスを必要とされる企業が多い。そのあたりが、我々が海外での事業を展開するひとつのきっかけとなりました。

同時に、お客様側の変化もあります。以前はメーカーがコスト削減のために海外に生産拠点を移すというケースが多かったのですが、数年前から海外のマーケットに向けてビジネスをするために出て行くというケースが増えてきました。我々の重要な顧客である、国内のSNSやゲームなどコンテンツ系の事業者の方々も、海外に営業に出て行くという傾向が強くなってきました。お客様が海外に進出する理由が大きく変わってきて、海外でビジネスのインフラとなるようなITシステムが必要になってきたのです。すると、だんだん我々が得意な分野、システム構築であるとか、そのベースとなるサーバー群、なかでも最近では仮想サーバーといった需要が海外でも増えてきました。

つまり、幅広い業種の方々が海外に出て行くようになったのが、我々がもう一度海外に出て行こうというきっかけになっています。最初は2012年の3月に、アメリカの西海岸でクラウドサービスのGIOを始め、2013年の1月から中国でもクラウドサービス事業を始めました。

——コスト削減ではなく、現地でビジネスをする企業では、どのようなIT課題をお持ちなのでしょうか。

丸山●たとえば、製造するだけであれば、中国にそれほど大きなシステムがなくても、日本にあるシステムにアクセスさえできれば、それを活用することは可能です。日中間の専用線でIP-VPNなど、以前に比べたらメニューも増え、価格もこなれていますし、それなりのスピードでアクセスできます。

ところが、中国のマーケットを対象にするとなると、Eコマースにしてもウェブにしても、やはり中国との間にはファイアウォールのような大きな壁があります。インターネットにアクセスするということで考えると、やはりサーバーが中国にないとビジネス的にはやりにくい。また、中国国内でインターネットのビジネスをするには、ICP(インターネットコンテンツプロバイダ)ライセンスが必要です。そういったものを中国国内でとって、中国国内にあるサーバーでビジネスをしなければ、中国のマーケットを狙っていくのは難しい。ということで、クラウドを提供するだけではなく、中国でビジネスをやるために必要になるライセンス取得も含めて、現地のパートナと一緒にやることにしています。

——現地のパートナというのは、中国法人ですね。

丸山●今回クラウドサービスを提供するに当たっては、チャイナテレコムと提携してサービスを提供します。同時に、ライセンス取得などに関しては、違う現地のパートナと組んで、そういったサポートも一元的にできるようになっています。

——遅延やライセンスの他に、中国のインターネット南北問題の解決という点も重要だと思いますが。

丸山●中国では、歴史的に北部に強かったチャイナユニコムと南部に強かったチャイナテレコムという2つのキャリアがあります。この2つのネットワークを繋ぐ回線の問題で、時間帯によっては異なるネットワークに接続するのが非常に混雑し、大きな遅延が発生することがあります(図1)。たとえば、チャイナテレコムのユーザーがチャイナユニコムのネットワーク上にあるサーバーにアクセスすると、時間帯によって大きな遅延が発生します。接続先がどちらのネットワークにあるかが問題になるのが、南北問題です。これについては、チャイナユニコムにも協力していただき、ゲートウェイを通して適切なオペレーションをすることで、この南北問題を解決したというのが、今回開始したIIJ GIO CHINAサービスの特長のひとつです。

図1 中国のインターネット南北問題(出典:IIJ)
図1 中国のインターネット南北問題(出典:IIJ)

——ユーザーは、IIJ Global Chinaとチャイナテレコムとの三者契約ということですが、手続きが面倒なのでは、あるいはコストが余計にかかるのではという心配があります。

丸山●金額的には日本の国内のGIOとほとんど変わりません。IIJが窓口となって一元的に処理しますので、発注が複雑になるということはありません(図2)。契約書は、ある意味でき合いの約款のようなものがありますので、それでお申し込みしていただくような形です。

図2 IIJグローバルソリューションズ中国一元的対応実施体制(出典:IIJ)
図2 IIJグローバルソリューションズ中国一元的対応実施体制(出典:IIJ)

——上海のデータセンターを利用されているということですが、インフラはどのようなものですか。

丸山●正確な場所は開示していませんが、上海でチャイナテレコムというと、だいたい皆さんあのへんかなというのはご想像が付くのではと思います。

——セキュリティやファシリティ系のサービス条件が気になります。

丸山●データセンターを選定するに当たっては、北京などもう少し北の方から南の方まで、かなりいろいろなデータセンターを見学して評価し、決めています。電源設備やフロア、エアコン、セキュリティなど、いろいろな点で評価した結果、我々がGIOのサービス基盤として適切な場所ということで使っています。

——たとえばTierレベルでは、どの水準に相当するのでしょう。

丸山●中国では独自の規準があるのですが、Uptimeで言えば、ほぼTier3相当といっていいと思います。国内のGIOの一部は松江のコンテナ型データセンターで運用していますが、あれと同等。サービスレベルとしては、国内と同水準で提供します。

国内と同等のクラウドを提供

——利用者の業種についてバリエーションが増えているという話がありました。初期のGIOの利用者はIT系が多かったように思うのですが。

丸山●いや、現在は必ずしもそうではなく、IT系は4割くらいでしょうか。あとは製造・流通・金融といった、企業のお客様が増えています。中国でも、最初はどちらかというとコンテンツ系ですが、同じように企業系のお話もいただいています。使い始めていただいている方と引き合いをいただいている案件も含めて考えれば、コンテンツ系が6で企業系が4といった比率です。

——やはり日系企業の利用が多いのでしょうか。

丸山●顧客第一号は、中国の企業でした。その後も中国企業の引き合いはありますが、やはり今は日系企業の方が多数を占めています。中国系は2?3割でしょうか。

——日本と同レベルのクラウド提供ということですが、今後は中国ローカルなサービスも必要とされるのではないかと思います。

丸山●そうですね。IaaSやPaaSというレベルだと、必要なことは国内とあまり変わらないのですが、中国でクラウドというと、もう少し上位レイヤのサービスを提供する必要がありそうです。アプリケーションを持っている方からSaaSをやりたいというお話をいただいていますし、中国独特のソフトウェアやコンテンツを載せたようなSaaSを少し広げていかなければとは思っています。企業で幅広く利用していただくという意味では、メール系、グループウェア系、経理などのSaaSをいくつか提供していく必要はあると思います。IIJのインフラの上に中国固有のコンテンツやアプリケーションを載せて、より幅広いマーケットにアプローチできる体制を整えていくことで、中国の大きなマーケットにリーチできるようになると考えています。

ただその前に、IIJが日本でやってきたようなインフラをしっかり作って、それが提供できるような体制を整備していかなければなりません。人材の確保やトレーニングには、コストも時間もかかります。マネージャクラスの人材には、日本語をある程度理解してもらう必要がありますし、そういう人材を集めるのにも結構苦労します。ジャパンクオリティについても、一部の方は分かっているが、やはりかなり多くの反応は「なんでそこまでやるの」という状況もあります。今回我々のチームに参加してもらっているメンバーには、日系企業でITの運用を担当していた人材やユーザーとして利用していた人材がいます。特にユーザーだった人たちは、日本のオペレーションの品質が、ユーザーにとって利便性の高いサービスを支えていることを実感しています。そういうメンバーを中心に、まだそういう経験のない現地スタッフに広めていってもらっている状況です。

——自社のスタッフだけでは足りないでしょうから、外部のスタッフとのリレーションも重要ですね。

丸山●外部に何社かそれなりの、日本のビジネスのやりかたをある程度分かっているパートナもいらっしゃいます。そういう方とは比較的うまくやれているかなと思います。

——通信会社やライセンスのパートナの他に、オペレーションのパートナもいるということですか。

丸山●構築・運用などSIのパートナや監視系のパートナがいます。サーバー運用は、特に仮想化の世界に入っていくとけっこう大変なので、そういう監視をやってくれるようなパートナを組み合わせて、日本からリモートで対応するのが難しいようなところを、現地でサポートしてくれるパートナを増やしています。

——ハードウェアは日本から持ち込んだのですか。

丸山●中国現地で調達していますが、仕様的には日本で調達しているのと同じものが中国でも調達できます。ただ、納期に苦労しました。ちょうど構築している最中に例の尖閣の問題がありましたので、それで余計に遅れて。

——そういうことがあっても、リスクを取らずに海外に出ない方が、経営にとってのリスクが大きいと。

丸山●そうですね。我々は国際展開では後れを取ったのですが、IIJ独自の強みが展開できれば、競争していけると思っています。さきほども触れましたが、データセンターやネットワークというのはキャリアが得意なところで、そこで勝負するのは難しいと思っています。ただ、ありがたいことに、今はちょっと上のクラウドのレイヤが主ターゲットです。そのレイヤになると我々にもまだまだチャンスがありますし、企業のビジネスでの利用に耐えうるサービスをグローバルにきちんと展開して企業に提供できているクラウドオペレータは、世界中にもまだあまりいないと思っています。

もちろん、ワールドワイドではアマゾンがクラウド事業を展開していますが、彼らが攻めているセグメントと我々の攻めているセグメントは若干異なります。アマゾンは、幅広くいろいろな層の企業に対して、パートナを使いながら顧客を広げています。我々はどちらかというと企業規模では比較的大手で、お客様がシステムを構築するに当たって、我々がSIとして幅広くサポートさせていただけるような方が中心です。我々は、SEやSIの構築力といったところを生かして提案できるようなクラウドサービスを提供します。

工業団地でコンテナ型利用も

——まず中国に進出しましたが、今後の展開は。

丸山●2012年は、上海以外では香港とバンコクとシンガポールに、それぞれIIJとして拠点を作りました。その中ではシンガポールが比較的、まだ社員数は少ないのですが、それなりのSIができるような体制が整っています。アジアで次はどこかということでは、たぶんシンガポールでしょう。やはりクラウド基盤を用意して企業向けにサービスを提供するという体制を整えようと思っています。

——時期的にはいつ頃を考えておられますか。

丸山●2013年度中を目処にシンガポールでのGIO提供を考えています。シンガポールは人件費も含めて費用的には高いのですが、ASEAN諸国へ日系企業が進出していますし、外資も含めて投資先としては大きい。製造だけでなく、流通系や金融系がハブとしてシンガポールの拠点を使うというケースも多いので、やはりそこは最初に押さえておこうということです。今のネットワーク環境でいくと、マレーシアやインドネシアからシンガポールのクラウド環境は問題なく使えます。

それ以外の周辺諸国には、場合によってはコンテナ型データセンターを持っていくという方法もあります。松江にはコンテナを20基以上並べて運用していますが、コンテナをひとつとか2つだけ持って行き、場合によっては、工業団地にコンテナを設置して、その中でクラウド基盤として利用していただくということもあるかもしれません。そのようなお話も、最近少しずついただくようになっています。

以前は、工業団地を作ったら自社内にサーバーを置けばいいのではないかと勝手に思っていたのですが、いろいろと顧客側の状況を聞くと、盗難や障害時の対応など、自社内にあるとさまざまなリスクを抱え込むことになるため、誰かに任せてきちんと面倒をみてもらった方が望ましいようです。ITのことが分かっている技術者も、工業団地にはそうはいないので、そういうところにコンテナを導入し、そこでITの面倒をみて欲しいというお話も、日系企業からいただくようになってきました。コンテナを持って行ってクラウド基盤として提供するというのは、近いうちにはあるかもしれません。

その他に、ヨーロッパも2013年度のどこかでクラウド事業を展開する予定です。場所はロンドンの予定です。一応ロンドン以外にデュッセルドルフに拠点を持っていて、アムステルダムにも設備を持ってはいるのですが、本格的にやるのはロンドンかなと思っています。2012年の4月にロンドンを拠点とするSI会社を買収して、そこにそれなりの人数もいて、一番やりやすいロンドンになるでしょう。

——ありがとうございました。

(データセンター完全ガイド2013年春号)

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