Internet of Everythingで新たなサービスを創出するシスコシステムズ

人見高史氏

シスコシステムズ合同会社
IoTインキュベーションラボ
テクニカルソリューションアーキテクト
人見高史 氏

米シスコの日本法人であるシスコシステムズ合同会社は、2012年11月に東京オフィス内に「IoTインキュベーションラボ」を設立した。新しいインターネットアーキテクチャの発展に向けて、新たなビジネスのサービスモデルを検討し、フォグコンピューティングという新しいコンセプトを打ち出している。インキュベーションラボの設立背景や役割について、同テクニカルソリューションアーキテクトの人見高史氏に話を伺った。
聞き手 本誌編集長 土屋信明  文 柏木恵子  写真 津島隆雄

インキュベーションラボ開設の背景

——インキュベーションラボが設立された背景を教えてください。

人見●世の中の流れとして、クラウドやモバイルという形でインターネットが発展してきましたが、次の大きなムーブメントとしてIoT(Internet of Things)とかM2Mといったものが出てきました。物がインターネットに繋がる、あるいは物同士が繋がるといった動きです。弊社ではそれをさらに進めて、物だけでなく人やサービスも含め、すべてが繋がるという意味で「Internet of Everything」(IoE)という言葉を使っています。この分野に力を入れていこうということで、昨年11月に「IoTインキュベーションラボ」が立ち上がり、私もそこにアーキテクトとして合流しました。

シスコは、クラウドやモバイル、センサなどのスマートデバイスが繋がったM2Mの世界を未来のインターネットの世界と捉え、IoTの実現に向けたアーキテクチャの研究開発に取り組んできました。スケーラブルで新しいアプリケーション・ビジネスを創出するインターネットアーキテクチャの発展に向けて考えたのが、図1のようなアーキテクチャです。これまでのクラウドコンピューティングやモバイルインターネットに加え、フォグコンピューティング(Fog Computing)という新たなコンセプトを加えています。この分野に取り組むために設立されたのが「IoTインキュベーションラボ」です。このラボの役割は、企業、学術研究機関、政府、標準機関などとの連携・コラボレーションを図りながら、エコシステムを構築し、IoTにかかわるテクノロジーリサーチや先進IoTソリューションの開発、具現化に取り組むというものです。

図1 シスコIoTアーキテクチャ
図1 シスコIoTアーキテクチャ(出典:シスコシステムズ)

——シスコの取り組むIoEは、従来のIoTやM2Mとどう違うのでしょうか。

人見●おっしゃるとおり、IoTとかM2Mという言葉自体は、弊社が新しく言い始めたことではなく、以前から使われていた言葉です。さまざまな解釈がありますが、IoTはどちらかというとエンタープライズであるとか法人系のところで使われています。事業分野ごとにそれぞれ垂直統合型のソリューションがあり、その中で物が繋がっていくという考え方です。M2Mというのは、通信事業者系の中で物が繋がる場合に使われます。よくあるのは、POSのシステムのようなものです。

弊社の言うIoEと従来型のIoTがどう違うのかというと、基本的な大きな流れとして、産業あるいはマーケットセグメントごとに独立した垂直統合型の閉じたIoTから、IPという共通の基盤をベースにして水平統合を目指していくということです。つまり、ひとつの閉じたシステム内だけで処理するのではなく、さまざまなものが集まってそれを処理する。たとえば、ビッグデータの処理では、従来の定型的なデータを集めて処理するだけでなく、さまざまなタイプのデータが共通のIPインフラを通して集まってきて、それを分析して新しい価値を作っていくという流れです。こういった垂直統合から水平統合ということ自体が大きな流れだと思います。その中で我々は、IPネットワークのインフラのエキスパートとして価値を提供することができるでしょう。そうしたIoTの基盤の上で人、プロセス、もの、データがつながり新しい価値を創造する世界が実現される、それを我々はInternet of Everything(IoE)と呼んでいます。

また、IoTという形でさまざまな物が繋がり、さまざまなデータを扱おうとしたときに、従来のクラウドコンピューティングのように、すべてのデータをセンターに集約するアーキテクチャでいいのだろうかと、我々自身が考察しました。ある程度のインテリジェンスをエッジに置くアーキテクチャが必要なのではないか、それを「フォグコンピューティング」と呼んでいます。モバイルやクラウドの次に物や事がネットに繋がるという流れになったとき、処理の分散化という方向性が出てくるのではないか。要は、さまざまなものを処理しようとしたときに、果たして、すべてセンターで集めて処理するのがいいのかということです。

——IoTはいつ頃から現実のものとして普及するでしょうか。

人見●弊社にはVNI(Visual Network-ing Index)という、ネットワークの将来予測をしている活動があるのですが、M2Mトラフィックが今後どれだけ増えるかという予測値があります。そこでは、2017年頃には今の24倍から25倍に増えるという予測を立てています。当然、スマートメーターなどのトラフィックは通常の携帯電話やスマートフォン、パソコンなどのトラフィックとは性質が違うので、数が増えたからといってトラフィック全体に大きな比重を占めることにはならないでしょう。ただ、確実にインターネットに繋がるデバイスが増えて、従来のIPアドレスでは処理しきれない時代になる。2013年から14年というのは、我々の考えるIoTに向けて、世の中がまさに動き出したときといえると思います。おそらく、5年から6年後には、インターネットのトラフィックに対するIoTのトラフィックが増えてくると思います。

インキュベーションラボの役割

——インキュベーションラボの役割とは何でしょうか。

人見●シスコのアプローチを図2に示しています。まず1つめのステップとして、技術革新・標準化活動があります。アーキテクチャー(図1)の一番下の部分が、スマートメーターなどの、センサ系のデバイスのレイヤですが、この部分は今までのインターネットのデバイスとはいろいろな違いがあります。数が増えてアドレスが足りなくなったらIPv6のアドレスを振ればいいというような、単純な話ではないのです。

図2 シスコのアプローチ
図2 シスコのアプローチ(出典:シスコシステムズ)

というのは、センサ系デバイスは省電力化されており、パッシブ型で必要な時だけ電源が入ってデータを送るようになっていることがあります。デバイスはたくさんあるが、電源が入っているのは6割とか7割というような制約のあるネットワークです。そのため、スケーラビリティの問題だけでなく、どのように最適経路を選択するかという問題も出てきます。そういう部分に関して、実はIETFやIEEEなどの標準化団体で検討が始まっています。

6lowpanはそういったさまざまな制約を持った、センサ系のようなアドホックなネットワークにおける隣接ノードの検出や、IPヘッダをできるだけコンパクトにするといったことを検討しています。RPLでは経路選択について、CoAPはアプリケーションの動きを規定するものです。このようなプロトコルの検討が進んでいて、シスコからも参加しています。

2つめのステップとして、テクノロジーの普及促進に向けた取り組みがあります。これももちろんシスコだけでできることではないので、研究レベルでのさまざまな協業をしています。IPSO(IP for Smart Object)アライアンス設立、IPv6フォーラムとの連携といったことです。ZigBeeアライアンスへの貢献もしていて、これはスマートグリッドに関するものです。

3つめのステップがソリューション開発です。標準化や研究だけでなくソリューションとして開発しなければいけません。この部分については、シスコがセンサデバイス自体を作るわけではないので、どこかと協業することになります。基本は、標準ベースでのオープンなアライアンスということで、我々のコンセプトに賛同していただけるようなメーカーなりSIと一緒になってやっていきたいと思っています。

フォグコンピューティングとは

——フォグコンピューティングのアーキテクチャについて、教えてください。

人見●従来のクラウドコンピューティングは、仮想化による資源の有効利用や、データセンターで処理をするのでロケーションにこだわらないというのがメリットでした。そもそも仮想化というコンセプト自体が、コンピュータやストレージが場所に依存せずに効率的なシステム設計ができるというものです。利用側がどこにいるかにかかわらず、データはすべてセンターに集中させてそこで処理をする。ただし、これまでのセンター集中型のクラウドコンピューティングモデルで、IoT/IoEのさまざまなデータを処理する際に、処理データのカバレッジと深さを拡大すると、指数関数的に探索空間が広がり、最適解を求めることが難しくなります。そのためビッグデータ分析においては、エキスパートの知見により探索空間を絞り、準最適解を求めるアプローチが取られます。

一方で、フォグコンピューティングは、仮想化が前提にはなっていますが、ロケーションを意識した、ロケーションアウェアなコンセプトです。Internet of Everythingでさまざまなデータ、あるいは生のデータだけでなく分析された結果である場合など、さまざまなものが処理されるとき、必ずしもセンターに持って行くのが効率的とは限りません。そのロケーションにあってこそ意味のあるデータもありますから、そういうものまですべてセンターに送る必要はない。通信帯域における効率というだけでなく、ある程度局所的に意味があるデータは、局所的に処理をしたほうがよい場合もあります。データ自体やデータ処理がネットワークエッジの「場所(Location)」において意味を持つなら、生データを局所的に保持・処理することにより、データ探索空間を局所化するアプローチであると言えます。たとえば、人が持っているスマートフォンや履いている靴にセンサが入っていて、常にデータをとって分析している。そのデータと、一番近い病院はどこかといったような、その人が今いる場所の情報と連携するようなこともひとつでしょう。バイタルが異常だから、一番近い病院はここだから行け、という情報がスマートフォンに出るようなイメージでしょうか。

局所的に意味があるというのは、往々にしてリアルタイム性が求められるということもあります。それに対して、時間をかけてデータを蓄積して分析するような処理は、当然センターに送って大きなデータセンターで処理をする。そういう役割分担があるでしょう。

そういう意味では、フォグコンピューティングとクラウドコンピューティングは決して相反するものではなく、むしろゆるく結合してお互いに協調し合うような考え方です。エッジ側にある程度のインテリジェンスがあって、そこにストアされて処理されるデータと、そこから抽出して、あるいは分析した結果だけをセンターに送って、分析なり処理をする。そこには連携が必要なので、仮想化という同じプラットフォームにある方がいい。

クラウドコンピューティングは、いわば大掛かりなクライアント/サーバーのシステムです。それが、ある程度自律分散が必要ではないかという揺り戻しが起きているのがフォグコンピューティングといってもいいかもしれません。

——IoTの具体的なソリューションとしては、まず出てくるのはスマートグリッドのようなものでしょうか。

人見●スマートグリッドやeヘルス、センサを用いた環境モニタリングや構造物モニタリングなどのソリューションが出てくると思いますし、ファクトリオートメーションはIoT戦略の中でも重要なマーケットです。工場の中にさまざまなセンサがあって、その情報から故障や異常を検知したり、あるいは監視カメラの映像も合わせて、セキュリティ上の問題を発見したり、といったことが考えられます。

——そういうソリューションは、個別の領域では、すでに存在していますが…。

人見●それがまさに、個別に閉じたシステムとしてあるわけです。セキュリティの問題もあって、インターネットでどこかに送るようなことはしていない。しかし、個々の閉じたシステムで得られる知見をセンターに集中してビッグデータとして処理あるいは分析すると、新しい価値が生まれるのではないか、ということです。

センサネットワークはそれぞれで比較的自律分散なネットワークになっていますから、それを直接センターに送りつけるのはデータ量としてもかなり無理がある。そこで、フォグというレイヤでインテリジェンスを持たせ、ある程度の処理をして、処理後のデータだけをセンターに送る。それは、圧縮して送るということかもしれないし、抜粋して送るのかも、統計処理した結果だけを送るのかもしれません。そのときにIPという共通の基盤で、仮想化という共通のプラットフォームでやればいいのではないかということです。

——その場合、ネットワーク装置に特別な機能が必要になりますか。

人見●IoTのアプローチは2つのケースを規定しています。ひとつはスマートデバイスが直接ネットワークに繋がる。ケース2はスマートデバイスをいったんM2Mゲートウェイで終端して、M2Mゲートウェイが固定回線もしくはモバイルの回線でセンターのサーバーに繋がる。フォグコンピューティングはどちらかに限るというわけではありませんが、我々がまず取り組もうとしているのは、2つめのケースです。いったんM2Mゲートウェイで終端する形態。このゲートウェイがネットワークのエッジに置かれインテリジェンスを持っていきます。

弊社ですでに製品化しているものでは、CGRという製品があります。これはスマートグリッドとかスマートメーター向けの製品です。他には、ISR 819という製品があって、これはまさにゲートウェイです。その後継機種がフォグコンピューティングを実装するM2Mゲートウェイになります。

——今後考えられる製品やサービスはどのようなものでしょうか。

人見●従来のオフィスオートメーション系ネットワークをIP化するだけでなく、こういった弊社のIoT戦略に位置付けて製品を作っていきます。工場には、“その場所で意味のあるデータ”がたくさんあります。そこで、工場のさまざまな管理オペレーションをよりデータ化し、IoTの観点でそのデータをうまくクラウド側で蓄積データにして分析するという方向性があります。また、よく言われるのは車にセンサを付けて、そのデータからさまざまなことを知る、交通系のセンサネットワークの話がありますね。プラント制御にしても交通系の制御にしても、垂直統合でばらばらにやってきている。それらの技術とノウハウを水平統合すると、まさにそれがビッグデータのトリガとなって、従来とは違うサービスができるでしょう(図3)。

図3 Internet of Things(IoT)時代の到来
図3 Internet of Things(IoT)時代の到来(出典:シスコシステムズ)

——新しいサービスが創出されることが重要なわけですね。

人見●IoT/IoEの推進によるイノベーションが新しいサービスを創出し、今後の10年間で14.4兆ドルの経済価値を生み出す可能性があると考えています。

——ありがとうございました。

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